相続土地国庫帰属制度を利用できるのか~農地の場合~

相続土地国庫帰属制度とは

この度は野口真守行政書士事務所のHPをご覧いただきありがとうございます。当所は都心部の大阪市内では珍しい農地・森林・原野専門の行政書士事務所です。大阪市内ですが全国各地にある農地・森林・原野の、相談、調査・診断・助言・手続等をさせていただいております。農地・森林・原野の活用でお困りでしたらお気軽にご相談下さい。

今回ご紹介するのは、相続した「農地」は相続土地国庫帰属制度を利用できるのか

についてです。当事務所が力を入れている土地の一つが「農地」です。「農地」はほかの土地と異なり、売買や貸借、転用などの場合、許可が必要となる規制の多い土地です。今回は規制の多い土地である「農地」をピックアップして制度利用のポイントなどを考えていきたいと思います。

それではまず『相続土地国庫帰属制度』について詳しくご紹介します。


○要件を満たし負担金を納付すれば相続した土地を国へ帰属できる。

『相続土地国庫帰属制度』とは、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律等による制度で、相続した不要な土地を、一定の要件を満たし、負担金を納付することにより国に帰属できる制度です。この制度は令和5年4月より開始する新たな制度です。

『相続土地国庫帰属制度』について詳しくは、法務省HP こちら

これまでの国や自治体、民間などへの寄付は、引取側の裁量により限られていました。今回の制度は、要件を満たし、負担金等を納付すれば国に帰属させることができるため、寄付よりも手離れしやすくなったのが特徴です。

また相続放棄をせず、一旦相続してから制度を利用しますので、すべての財産を放棄しなくてもよくなるため、他の財産を相続することができます。

そのほか特徴として、相続時期は問われませんので、登記簿上所有原因が相続の場合、その土地は利用することができます。そのため遺言書作成前にこの制度を利用することにより相続人の相続税や固定資産税など、負担軽減に繋げることもできます。

ここからは『相続土地国庫帰属制度』について詳しくご紹介致します。まずは”相続した農地は、どのような農地なのか”から進めていきたいと思います。


相続した農地は、どのような農地なのか

○農地の所在、地目の確認が重要。

制度について考える前に、相続した『農地』について知ることが重要です。特に、所在は必ず確認する必要があります。

『農地』は、他の土地と比べてさまざまな法令規制があるため、その所在によって規制の内容が異なります。また『相続土地国庫帰属制度』の利用についても大きく変わります。詳細については、後ほどご紹介致します。

次に、農地の地目についてです。まず地目とは、不動産登記簿の表題部に記載されている土地の種類のことです。一般的に農地といわれている土地は『田』又は『畑』のどちらかになります。万一、地目が『田』又は『畑』でない場合、その土地は農地にはあたりません。

そのため土地の地目確認は重要となります。また『田』又は『畑』により、実際の土地の現況の取扱いも異なりますので可能であれば、あわせて確認しておきましょう。

『農地』は法令規制が多いため、農地の所在確認と、地目が『田』又は『畑』のどちらになるか確認する必要があります。


○建物が建っている土地が農地の場合もある。

当所に寄せられる相談で多いのが、相続した『農地』についてです。

その中でもよくあるのが、建物が建っている土地の地目が『田』又は『畑』に関する相談です。本来、農地のままでは建物を建てることができないため、まず農地転用許可申請をし、建物を建てることができる『宅地』へ地目変更をおこないます。

しかし何十年も昔の場合、それら手続をおこなわずに建物を建てている場合があり、そのままの状態で相続している案件が多くあります。相続自体は、しっかりと手続をおこなえば相続登記できますので問題ありません。しかし、売買などをする場合に土地の地目が『田』又は『畑』であると問題となります。

なぜなら土地の地目が『田』又は『畑』である限り、『農地』として取り扱われるからです。

上記でも記載したとおり『農地』はさまざまな法令などの規制があるため地目が『田』又は『畑』である場合、農地転用等の手続をおこなわないと売買はできません。そのため相続した土地・建物を売買するにはまず、農地転用手続(追認的)又は非農地証明願などの手続をおこなった上で、地目変更をおこなわなければなりません。

但し、これら手続も必ずできるかというとそうではありません。そのため手続をおこなう前の農地の確認や調査が重要となります。これを怠って農業委員会等へ直接相談してしまうと、場合により土地を農地へ戻すよう原状回復命令を受けてしまう可能性があります。

実際に当所への相談で、原状回復命令を受けたためどうしたらよいかと相談に来られる方もおられますが、命令を受けてしまってからでは当所としてもどうしようもありません。そのため農業委員会や自治体等へ行く前に、まずは当所のような農地専門家へご相談される方がよいと思われます。

農地によっては、建物が建っていても”原状回復命令”を受ける場合があるため注意が必要。

話しが少し逸れましたが、農地はほかの土地と異なりさまざまな規制や問題があります。特に相続農地は、売買するにも手続が必要であり農地の管理も大変なため、ほかの土地に比べて大きな負担なります。また市街化区域以外の農地は、売買するには価値が低い土地になります。そのため不動産業者は、ほとんど仲介などをおこなっていません。そのことを農地所有者の方は理解しておく必要があります。

それでは相続人は、規制が多い『農地』を所有し続けなければならないのかと思われると思いますが、『相続土地国庫帰属制度』は、まさにそのような相続人のためにできた制度になります。

当所では売買や貸借に適さない『農地』を相続した相続人に対して、『相続土地国庫帰属制度』の利用をご提案させていただいております。

※ご注意:相続土地国庫帰属制度が開始するにあわせて、詐欺などの増加が予想されますので、お問合せは必ず専門家(弁護士、司法書士、行政書士)へおこなうようにして下さい。

それでは次に”農地は、相続土地国庫帰属制度を利用できるか”についてご紹介いたします。


農地は、相続土地国庫帰属制度を利用できるか

○『農地』も、一定の要件を満たし負担金を納付すれば利用できる。

続いて『農地』の、相続土地国庫帰属制度の利用についてです。

『相続土地国庫帰属制度』は、農地であっても一定の要件を満たして負担金を納付すれば他の土地と同様、国へ帰属させることができます。但し、『農地』ならではの注意点があります。

まず1つ目が”農地の所在”についてです。

上記でも記載致しましたが、農地はさまざまな法令規制があります。そして『農地』の負担金は、面積にかかわらず原則20万円とされていますが、その所在により負担金算定方法が変わります。

例えば、都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の農地の場合、面積区分に応じた算定方法になります。また農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地の場合も同様で、土地改良事業に関する農地も場合により算定方法が変わります。

農地の所在や法令規制により、負担金算定方法が変わるので確認が必要。


2つ目は”土地改良区等の管理費”についてです。

農地によって『土地改良区』の受益地である、『水利組合』の組員である場合があります。これらの場合、国へ帰属させた後の国の管理費用を負担しなければならないかどうかが重要になります。国としては、帰属した後に管理費用がかかるのはできる限り避けたいという考えがあるため、申請要件の多くに管理費用が発生するのかが記載されています。

そのため管理費がある場合、この制度を利用できない可能性があるため、一度”法務局への相談”してみるのがよいと思われます。

”法務局への相談”について詳しくは、当所HP”法務局への相談” こちら

国に帰属してからも管理費の負担が続く場合、制度を利用できない可能性がある。


3つ目は”農地の現況”についてです。

相続した農地は、放置されている場合が多々あります。そして放置された農地は『不耕作農地』となっていきます。この制度を利用する場合、地目と現況が異なるからといって直ちに却下はされませんが、『農地』として利用できなくなると管理費の負担がかかり、却下される可能性があります。そのため国庫帰属するまでは、農地の現況確認や管理をおこなう必要があります。

現況が耕作できなくなると、制度を利用できない可能性がある。

それでは次に”『農地』を放置するリスク”についてご紹介いたします。


「農地」を放置するリスク

○不法投棄による周辺への影響や、数次相続など

次に『農地』を放置するリスクについてです。

どうしても土地が遠方にあったり、行ったこともなかったりすると、土地を放置しがちです。特に農地は、耕作し続けなければならない土地のため、一度放置してしまうと元に戻すのも労力と時間がかかるため管理するのが非常に大変です。しかし、土地を放置することにより負担やリスクは増していきます。

まず1つ目が”不法投棄などによる周辺への影響”です。

農地をそのまま放置することにより、産業廃棄物などが不法投棄される可能性があります。不法投棄された物の管理責任は土地所有者にあるため、その物を処分する費用が発生する場合もあります。

また近年では、熱海の土砂災害ような人災が発生しております。『土砂』などを不法投棄されてしまうと、その農地は利用できなくなる可能性もあり、そうなってしまうと制度を利用することができなくなります。

また自然災害についても考えなければなりません。農地の場合、水害などが考えられます。相続人が相続した農地がどういった所在に立地しているのか、上記でも書きましたがハザードマップなどで確認する必要があります。この確認を怠ってしまうと、所有のリスクが高まる可能性があります。


2つ目が”耕作者をしている者がいる”場合があります。

農地でよくあるのが、このケースです。

農地所有者自身が高齢化や病気などのため耕作できなくなってしまった時に、近隣の農家さんに耕作をお願いする場合がよくあります。この場合、口約束でお願いすることがほとんどのため契約書などの書面はありません。そのため耕作している人が誰なのかわからないことが多々あります。

まだ当事者同士がわかっている場合はまだよいのですが、お願いされた方も耕作できなくなり、更に別の者にお願いするようなケースもあります。こうなってしまうともはやどのような経緯でそうなったかもわからなくなります。

このように第三者が耕作していた場合、農地を返すための費用を要求される可能性があります。こうなってしまうと非常に厄介です。当事者同士は口約束でしているため、どのような内容でお願いしたのかがわかりません。そのため言った者勝ちになってしまいます。

このようなケースの場合はまず、誰が耕作しているのかを確認し、どのような経緯で耕作しているのかを確認する必要があります。

中には勝手に農地を利用している『ヤミ耕作』の可能性もありますので、その場合は毅然と農地から追い出さなければなりません。


3つ目が”固定資産税、相続税の負担”です。

農地も含めた不動産は、固定資産税を納付しなければなりません。その金額はその土地や建物により異なりますが農地の場合、比較的低額であることが多く、また『相続税納税猶予制度』などもあります。しかし『相続税納税猶予制度』を利用すると、その相続人が亡くなるまで農業を続けなければならなくなるため、最近では利用をしない相続人が増えているそうです。

固定資産税は、10年20年と所有する限り永遠に払い続けなければなりません。また相続が発生した場合、相続税も納付しなければならない場合もありそれは相続し続ける限り続きます。


4つ目は”数次相続による共有”です。

不動産の相続で、できるだけしない方がよいのは、共有にすることです。一見、共有はそれぞれの持分を均等にできるのでよいように思われますが所有者が増えてしまうと、その分、自由がきかなくなります。例えば土地売買やこの制度を利用する場合、所有者全員の同意が必要となるためです。

単独所有であれば、その所有者が自由に売買や制度を利用できますが、共有になってしまうと一人でも反対する者がいる場合、何もできなくなってしまいます。そのため相続不動産はできるだけ単独所有をした方がよいのです。

但し、単独所有にさせるためには遺産分割協議などをしっかりおこなっておく必要があります。相談でよくあるのが、相続登記などを放ったらかしにしていたため数次相続が発生している場合です。この場合、持ち分は少なくても共有者全員の同意が必要となるため、全員の同意を確認するだけでもかなりの手間や時間、費用がかかってしまうのです。

そのため固定資産税などが安価であっても放置せず、共有者が増加する前に対策をするのが理想です。

※因みに、令和6年より『相続登記の義務化』が開始します。 

詳しくは、法務省HP こちら


最後に

以上が”相続土地国庫帰属制度を利用できるのか~農地の場合~”でした。

先日初めて”法務局への相談”に行かせていただき『農地』についても相談させていただきました。基本的な申請要件や土地改良区などの確認は必要となりますが、思っていたよりも申請はしやすいかもしれません。

しかし農地は『森林』同様、広大なため申請に必要な現地写真や境界点などの撮影は、想像するだけでもかなり労力を必要とします。申請者がご高齢の場合、かなり難しいと思われますので『農地』の制度利用については、専門家へご相談されるのがよいと思われます。

『相続土地国庫帰属制度』の利用について詳しくは、当所ページ こちら

最後になりますが、不動産は所有し続ける限り、子の世代、孫の世代と、永遠にその負担やリスクは続いていきます。このような負担やリスクを後世へ引き継がせないためにも『相続土地国庫帰属制度』の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

今回は以上になります。最後までご覧いただきありがとうございました。