
こんにちは。行政書士の野口です。
3月に入りましたが、まだまだ寒い日が続きます。今年に入り、農地や森林の相続などの問い合わせも多くあり、それにあわせて色々な問題に対応させていただいております。
今回は、相談を受けた中の一つ、共有農地を単独所有するための方法について書きたいと思います。
というのも実は、こういったことでお困りの方も潜在的に多いような気がしたため、単独所有するきっかけになればと思いました。
令和5年4月27日より『相続土地国庫帰属制度』もスタートするため、農地をはじめとする土地所有は出来るだけ単独所有にする方が後々取り扱いやすいので、そのような方たちのヒントになればと思います。
それではまず『単独所有にするメリット』とは、についてです。
『単独所有にするメリット』とは

○権利移転などがしやすい
まず、単独所有するメリットについてご説明します。単独所有するメリットは、権利移転がしやすくなります。
もちろん、共有者がいても権利移転は可能ですが、共有所有の場合、共有者全員の同意が必要になります。そのため、一人でも権利移転に反対する者がいる場合、権利移転をすることができません。ご自身が売買したいと考えても一人が反対すれば、そのまま所有し続けなければならなくなるのです。
また不動産は、いわゆる不可分財産(分けることのできない財産)のため共有者で分けることが難しい財産でもあります。土地については「分筆」という土地を分ける方法もありますが、その場合、土地をどのように分けるかで大体、争います。また分筆することにより、権利移転はしやすくなりますが、土地は小さくなってしまうため売買がしにくくなります。
そのほか共有者は共有不動産を利用する権利がありますので、他の共有者の利用を阻むことができません。そのためご自身が考えている利用方法と異なる利用方法をされたとしても、それをやめさせることができません。(※共有持分によって異なります。)
そのため相続が発生した場合、不動産については単独所有とするのがよいといわれています。(これがなかなか難しいのですが・・・。)
それでは次に、共有のままにしておくと、どのような影響があるのかご紹介します。
○単独所有することにより、相続による共有者の増加を防ぐ。
不動産をはじめとするさまざまな財産は、その所有者が亡くなることにより相続が発生します。相続が発生すると、一般的には配偶者や子などの法定相続人に相続されます。可分財産(預金、金銭など)は、分けることができますが、不動産については、上記でも記載したとおり分けることができません。
そのため法定相続人が複数人いると共有者が増えていってしまう傾向にあります。
このように不動産は、所有者が亡くなるたびに共有者が増えていくことになります。この共有は、相続が発生する限り続きます。また共有者が増加するたびに共有割合もどんどん減っていくため、最終的に共有していても何もできない状態になり、リスクや負担だけを負うことになります。
そのため遺産分割などの際、法定相続人の間で単独所有するように話し合いをすることにより次の世代への負担を減らすようにすることができます。
万一、現在共有しているのであれば、共有者の中から一人へ単独所有するように共有者と話し合いをするのがよいでしょう。
続いてはタイトルにもある、農地を共有から単独所有にすることついてご紹介します。
農地の贈与は、許可が必要!?

○農地の権利移転は許可が必要
上記では、共有から単独所有にすることのメリットをご紹介しましたが、ここからは農地の共有についてご紹介致します。
まず農地は、権利移転をする場合、農業委員会等の許可が必要となります。この許可を「農地法3条許可」といいます。この許可を得ずに権利移転をすることはできません。またこの許可を得ずに不動産権利移転登記もできません。そのため農地を売買するなどの権利移転をおこなう際、必ず3条許可が必要となります。
この3条許可は共有者へ権利移転する際も同じで、共有者へ単独所有させようとする場合(例えば、贈与など)にも3条許可が必要となります。
それだったら、単独所有させるために3条許可をしたらいいじゃないかと思うかもしれませんが、3条許可には要件があります。その要件とは、主に「農地を耕作することができる」能力が必要となります。
つまり共有者の中に耕作できる人、すなわち農業をしている人がいない場合、誰にも単独所有させることができないのです。ここが、農地を単独所有させるときの厄介なところです。たとえ共有者から権利移転するとしても3条許可が必要となってしまうのです。
そのため特に農地については、相続の時点で単独所有するのがよいと考えられています。
それでは、農地は全く単独所有をさせることができないのでしょうか?実は、一つ方法があります。次にその方法をご紹介します。
農地を単独所有させる方法

○所有権の持分放棄をする
それでは、ここから農地を単独所有させる方法についてご紹介します。
単独所有させる方法は、ズバリ!単独所有する人以外の共有者が所有権の持分放棄をすることです。この方法を利用することにより、農地法3条許可は不要となり、3条許可を得ずに単独所有することができます。
通常、贈与などは所有権を移転させるので農地法3条許可が必要となります。しかし持分放棄の場合、放棄する人は自身の持分をなくしているにすぎません。そのため所有権を移転にはあたらないと考えられるため、農地法3条許可は不要となるのです。
農地法3条許可が不要であれば、そのまま不動産の所有権放棄の登記をすることができます。
※なお、不動産の所有権放棄の手続は司法書士の専業となります。予めご了承下さい。
○所有権放棄の登記をした後、届出が必要
上記で、不動産の所有権放棄により単独所有させる方法をご紹介致しましたが、手続について一点、注意が必要です。それは所有権放棄の登記が完了したら、その後に農業委員会等への届出が必要となります。
この届出は、農業委員会が管理している農地台帳と呼ばれる台帳に記載されている農地所有者や耕作者の名義を変更しなければならないからです。この届出を怠ると、後々面倒なことになるのでお忘れないようにお願いしたいと思います。またこの届出は、行政書士の専業となります。
共有農地の単独所有にする方法については以上になりますが、共有農地を単独所有する場合、注意点がいくつかあります。次に注意点についてご紹介します。
農地を単独所有する場合の注意点

○相続税納税猶予制度を利用しているか
農地を単独所有する場合、注意することがいくつかあります。ここでは主な注意点3つをご紹介したいと思います。農地の単独所有する前に、一度確認するようにしていただければと思います。
まず一つ目ですが、相続税納税猶予制度を利用しているかです。
相続税納税猶予制度とは、農地特有の制度で、通常、被相続人の財産を相続した際、相続税が発生します。その時、農地の相続税に限って、納税しなければならない相続税を、農業を続けることを条件にその相続税の納税を猶予するという制度のことです。
そして制度を利用した相続人は、死ぬまで農業を続けることにより、その相続人が亡くなった時、猶予された相続税の債務が消滅します。反対に、相続人が亡くなる前に農地の権利を移転したり地目変更をしたり農業をやめてしまった場合、猶予されていた相続税(利息も含む)を納税しなければならなくなります。
そのため農地を単独所有する場合、共有を放棄する人がこの制度を利用しているかどうか確認が必要となります。
○放棄する共有者との関係
次に、放棄する共有者との関係も注意が必要です。
まず、共有者と連絡をとっていたり面識があれば話し合いもしやすいですが、遠い親戚や会ったこともない場合、注意が必要です。相手方の立場になってみればわかりやすいと思いますが、突然、農地を放棄してほしいと連絡がきた時、大体の方は不審に思われ、その後の話し合いが難しくなる場合があります。そのため共有者との関係は慎重にする必要があります。
また不動産登記簿の共有者が所有した時期によっては注意が必要です。共有した時期により、その共有者が高齢である可能性があるためです。万一、共有者が高齢の場合、相続が発生している可能性があります。その場合、相続登記が未登記である可能性もあり、そうなってしまうと共有者に連絡をとること自体が難しくなります。
※令和6年より相続登記の義務化が開始しますので、義務化によって共有者への連絡は取れやすくなるかもしれません。
○固定資産税の増加
最後は、固定資産税の増加です。単独所有となると、これまで共有者が納めてきた固定資産税がすべて単独所有者の負担となります。
農地の場合、比較的固定資産税は低く抑えられていますが、農地の面積がそれなりの広さになる場合や、農地転用が可能な農地で価値が高い場合などは注意が必要です。
また固定資産税については、一度、税理士へご相談するのもようでしょう。
最後に

以上、『共有農地を単独所有する方法』についてでした。
今回、単独所有について書きましたが、このような手続をおこなう以前に農地や不動産を相続した場合、単独所有にするのが一番よいのではないでしょうか。
単独所有にすることにより、所有者だけでなく相続人などの承継人の負担や争いも減ると思います。特に農地など、利用に制限がある土地については、利用できる人が所有するのが最もよいと思います。
また国や自治体も、農地を耕作できる人(例えば認定農業者など)への集積をすすめています。その際に、共有者が反対している場合や、共有者が不明であるなどの場合、集積するにも弊害が出てくる可能性があります。
またどうしても利用できない場合、令和5年4月より開始する「相続土地国庫帰属制度」を利用することも可能かもしれません。
そのため、まずは農地を権利移転しやすいようにしておくことが重要であると思います。
今回は以上となります。ご覧いただきありがとうございました。