こんにちは。行政書士の野口です。
今回は、市街化区域内にある農地の一つ『生産緑地』について書きたいと思います。先日より様々なところで『生産緑地』について色々なお話を聞き、2022年の生産緑地問題など整理しながら書きたいと思います。
生産緑地とは
市街化区域に緑地の整備を。
まず『生産緑地』とは、都市計画法によって”生産緑地地区”として市街化区域内で指定された農地のことをいいます。本来、市街化区域というのは、すでに市街地となっている区域、および、今後おおむね10年以内に計画的に市街化していくべき区域をいい、農地であることは市街化区域の目的に反します。なぜこのような状態が起きたかというと、高度成長期に都市部へ人口が急増し、住宅や商店等生活基盤の供給が追い付かなくなり、都市部周辺の農地等が無秩序に宅地開発されていきました。それを抑制するため都市計画法が創設され、都市機能を考えた整備が行われるようになり、市街化区域内の農地もそれにあわせて整備され、それが生産緑地となりました。
『生産緑地』の特徴
生産緑地の最大の特徴はその課税にあります。本来、市街化区域にあるため宅地と同等の固定資産税となるのですが、生産緑地に指定されると固定資産税は農地並みとなり宅地と比べはるかに低額となります。また、その土地の評価は、市街化区域のため売買する場合は市街化調整区域の農地よりも高く評価されます。いわば、固定資産税は農地並み・価値評価は農地より高いという、ハイブリッド的な土地といえます。ただし、そのように維持するためには一定期間、耕作を続けなければならないなどさまざまな要件もあり、実際はそんな簡単な話ではないのが現実です。
相続税納税猶予制度の問題
『生産緑地制度』についてはもう一つ『相続税納税猶予制度』の問題があります。
『相続税納税猶予制度』とは、農業を主に従事している者(被相続人)から農地を相続した際、その”相続人”が本来納めなければならない相続税の一部を猶予してもらえ、その後、その”相続人”が終身(死亡)した時、その相続税も消滅するという制度です。
ただし制度を利用する場合、その”相続人”が終身(死亡)するまで主たる従事でいることが要件となります。万一、”相続人”が主たる従事者でなくなった場合(例えば、農地を宅地にした時・身体等を故障した時など)猶予されていた相続税が確定し、それまで猶予されていた相続税と+利子税を納付しなければならなくなります。
このため『生産緑地制度』を利用している農地を相続する場合、さまざまなことを確認しなければなりません。
『都市計画法』『市街化区域』『生産緑地』『固定資産税』『 相続税納税猶予制度 』
市街化区域内の農地について
市街化区域の農地は大きく分けると3つ。
上記で『生産緑地』を説明しましたが、市街化区域の農地には大きく分けて3種類の農地があります。それが以下の3つです。
- 一般農地
- 生産緑地
- 特定生産緑地
1.『一般農地』とは、宅地で耕作している農地のことです。例えば、家庭菜園などがそれにあたります。宅地で耕作しているため、固定資産税は宅地並みとなります。因みに大阪府でお聞きしたところによると、いきなり宅地から生産緑地にすることはできず、最初はこの一般農地で農業を行い、農業を継続できるかどうか確認されるそうで、継続可能だと認められないと『生産緑地』の指定はされないそうです。また、一般農地でも通常の農地と同じ設備が必要なため、相当な費用が必要となります。
2.『生産緑地』とは、上記でご紹介したとおり”生産緑地地区”として指定された農地のことです。ただしこの指定は、30年経過するといつでも所有者から市町村長へ生産緑地の買取りを申出することができるようになります。もう一つ、30年を経過すると固定資産税も段階を経て宅地並みとなります。注意点として『生産緑地』の指定は30年を経過してもそのまま継続します。そのため他の目的利用を検討されている場合『生産緑地』の指定解除をする必要があります。わからない場合は当所へご相談下さい。
3.『特定生産緑地』とは、上記『生産緑地』を30年経過しても、農地並みの固定資産税や『相続税納税猶予制度』を継続させるためにできた制度です。『生産緑地』所有者は『生産緑地』を30年経過する前に『特定生産緑地』の指定を受けることにより10年延長されます。そしてこの10年は経過が近付く度に更新することができ『生産緑地』を継続することができるのです。因みに宅地から特定生産緑地にすることはできず『生産緑地』からに限られています。あくまで『特定生産緑地制度』は『生産緑地制度』の補完的な制度なのです。
宅地の生産緑地化を考える。
上記『特定生産緑地制度』の趣旨の一つに、人口減少により宅地需要の減少に言及しています。『生産緑地』を宅地へ転用する傾向が現在も強いですが、人口減少によって宅地の需要が減少へ転換することがあれば、宅地から『生産緑地』へ利用方法が変わることもあるかもしれませんね。
『一般緑地』『特定生産緑地』
2022年の生産緑地問題
生産緑地制度は30年。
『特定生産緑地の手引き』(国土交通省 都市局 都市計画課 公園緑地・景観課 令和3年6月版)によると、2022年に生産緑地指定されてから30年を経過する生産緑地の割合は、面積ベースで約8割にものぼります。これは1982年に『生産緑地制度』が始まったことにより、その30年後にあたるのが2022年であるためです。そして2022年問題というのは、①『特定生産緑地』として継続するのか、それとも②買取の申し出を自由にできるようにするのかを決めなければならないという問題が発生するのです。
『生産緑地』は、相続人の問題でもあるが・・・。
上記2022年問題は、所有者の問題だけでなく、その相続人の問題でもあります。相続人が所有者を引き継いで農業を営農するのであれば問題はないのですが、引き継がない場合もあります。その場合どのように区切りをつけるか、所有者の意思や身体のこともありますので難しい問題でもあります。また、上記でも記載したように『相続税納税猶予制度』を利用されている主たる従事者の場合『特定生産緑地制度』を利用されるのではないかと考えています。そのため、私自身は所有者の意思を尊重することがよいのではないかと考えています。
最後に
大都市の中の『生産緑地』は憩いの場でもあります。最近では、一般にも開放し『市民農園』とすることもできるようになり『生産緑地』の賃貸借も以前に比べ緩和されてきています。
また『特定生産緑地制度』の最初の受付期限が終了した地域もでてきています。一度期限を過ぎてしまうと、後からすることはできません。そのため固定資産税や猶予されていた相続税+利子税などの問題が発生する場合も考えられます。万一、利用の検討をされている方がいらっしゃいましたら、お早めに自身の自治体へご確認等をお願いします。
今回は以上です。ありがとうございました。