【『半農半X』をされている方にお話をお聞きしました!】

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こんにちは。行政書士の野口です。

あっという間に6月。今年も半分近くとなってきました。おかげさまで、春ごろから色々なご相談をいただき、この投稿も書く時間がほとんどありませんでした。書きたいことはいくつかストックしていますので、少しずつ書かせていただきたいと思います。

そして今回は、以前より興味があった『半農半X』について書きたいと思います。

『半農半X』とは、仕事の半分は農業、残り半分は別の仕事という新しい働き方・ライフスタイルのことです。兼業農家の…

近年、この『半農半X』を希望する方が増えてきているそうで農業の担い手不足の解消にも繋がり、農業の一つのスタイルとして確立されるのではと考えています。

そして今回、大阪府の農家さんや自治体の方とのご縁から実際に『半農半X』をされている”石坪さん”にお話を聞くことができました。

なぜ『半農半X』をしようと考えたのか、集落との付き合い方や『半農半X』の生活など、大変貴重なお話を聞かせていただきました。

石坪さんは『半農半X』を始めて3年目となりますが、まだまだ試行錯誤されているところで、『半農半X』を考えられている方には参考になるお話も多いと思います。

石坪さん自身も、少しでも実際の生活を知ってもらえればとおっしゃられており、今回書かせていただきました。

これから『半農半X』を考えられている方やそうじゃない方にも、これからのライフスタイルの一つとしてご覧いただければと思います。


【石坪さんのプロフィール。】

石坪 さん 男性 47歳。

現在、大阪府茨木市に在住。

農家とDTPデザイナーの二つの顔を持ち半農半Xを実際にされている。

ここからは石坪さんが『半農半X』に至るまでを順を追ってご紹介します。


モノづくりから田舎暮らしへ。

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幼少期は大阪市内に在住されていた石坪さん。当時からモノづくりが大好きで、自分の工房のような広いスペースがほしかったそうです。すでにこのころから田舎暮らしを考えるきっかけがあったのかもしれません。

その後大学へ進学、美術学部経て、フリーペーパーの会社へ就職、デザインもこの時にされていたそうです。この頃、大阪市内に住んでいましたが息苦しさを感じ、40歳になったら田舎に住むことを決意されたそうです。 

40歳で田舎暮らしを決意した大きな理由として、田舎暮らしの時期が遅くなればなるほど体力が落ちていき、田舎暮らしを楽しむことが出来ないと考えたからだそうです。

確かに一般的なイメージは定年退職後に退職金を使って田舎で余生を過ごすというような方が多いように思います。

しかし石坪さんは、余生で田舎に住んでも身体が動かなければ楽しめないと考えられ、私もいわれてみればそうだなと考えさせられました。

もしかしたら今の40代や50代で、そのように考えている人も増えてきているのかもしれません。


とにかくやってみたかった『農業』。

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石坪さんの田舎暮らしでやってみたかったこと。それは『農業』だったそうです。その理由は『農業』は田舎暮らしの醍醐味の一つであり、とにかくやってみたかったそうです。

ただ『農業』は、とにかくやってみたいと思っても実際には簡単にすることができません。

農地の売買をするためには買い手(担い手)の技術や知識・能力等が不可欠で、やる気だけでは農地の売買だけでなく貸借もできないのです。

実際に石坪さんは農地の売買等を見据えていたため、農家の認定が必要になるかもしれないという可能性を考え、家庭菜園よりも大きな『農業』を志すきっかけとなったそうです。

また『農業』を志したきっかけとしてもう一つ、『家』もあったそうです。

田舎には空き家がたくさんありますが、その中には田舎特有の『農地付き空き家』という物件もあります。

『農地付き空き家』は農地の売買等と同じく、農家でないと売買できない場合もあります。

せっかく気に入った物件が『農地付き空き家』のため買うことができないとならないため、石坪さんは『農地付き空き家』であっても購入することができるよう、農家を志したきっかけの一つでした。

現在、放置された農地や農地付き空き家はたくさんありますが、それらがなかなか活用されていない理由の一つとして、『担い手のハードルが高すぎる』ように思います。

石坪さんのように『とにかくやってみたい』と思っている人たちが入りやすい制度や支援がこれから必要ではないかと行政書士として感じています。


農業スキル:大阪府独自の『準農家制度』について。

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石坪さんは農業スキルを身に着けるため、大阪府羽曳野市にある農業大学の短期集中プロコース(通称:短プロ)に、週1回、1年間学ばれました。

大阪府の農業大学について詳しくは こちら

ここでは、土壌の知識や技術、植物の育て方や注意点、農機具の使用方法、商品販売・POP制作など、農業経営をするための総合的な知識や技術を学ばれました。そしてここでは同じ『準農家』を目指す仲間とも出会うことができたそうです。今でも時々連絡をとられているそうで、いっしょに学んだ仲間も知識や技術と同じくらい重要なのかもしれません。

そのほかにも、石坪さんの実家は福知山市に古民家を所有しておられ、そこに農地が少しあり、じゃがいもやたまねぎなどを栽培し、週に1回は行っていたそうです。因みに現在も2週に1回は行かれているそうです。

そして短プロ修了後、大阪府独自の制度『準農家制度』を申請し、晴れて『準農家』に認定されました。これにより最低限の農業スキルを身に着けることができました。

大阪府の『準農家制度』の申請について詳しくは こちら 

※準農家候補者の登録申請は令和6年10月末までとなります。ご注意下さい。

※因みに近年『短プロ』への応募が増加しており、倍率が上がり抽選となっているそうです。


【準農家制度とは】

大阪府独自の制度で、新規就農者までではないが最低限の農業知識や技術等を有している者として農地を借りることができ、農業ができる制度です。認定の審査には、事業計画書の提出や面接などがあります。

『準農家制度』の特徴の一つとして、一般の人では利用できない農地中間管理機構(みどり公社)などから農地を借りることができます。

みどり公社(農地中間管理機構)について詳しくは こちら

反対に金銭的な支援がないところが今後の課題ではないかと思います。

例えば『準農家制度』は新規就農者にあたらないため、認定就農者支援制度のような制度はなく補助金などはありません。『新規就農者』になるためのステップアップとしての制度であるならば『準農家制度』にもそれなりの金銭的支援も考えよいのではと石坪さんのお話を聞いて感じました。

※注 農地の権利移転や貸借する場合、各市町村の農業委員会の許可が必要となります。そのほか、農地中間管理機構を利用して貸借する場合も農業に関する知識や経験がないと貸借させてもらえません。

移住の条件。

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『準農家制度』認定を受けた後、農地を貸借したのは石坪さんが44歳の時でした。

まず石坪さんは移住先を考えました。その条件として

①実家(大阪市)に近い。

②山菜を作りたいため、山に近いところ。

の2つを考えられたそうです。(山菜を作りたいと思うところが面白いですね。)

実家にも、そして山にも近いところとなると大阪府でも限られてきます。例えば、高槻市や枚方市などが挙げられますが、その時、条件に合ったところが茨木市の山の方でした。

そしてこの茨木市でまず、畑0.86反を借りて石坪さんの『半農半X』がスタートします。当所は農地のみを貸借したため、家を借りるのはそれから約1年後で、それまでは家から通って農作業をされていたそうです。


集落との付き合い方。 

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実際に移住を考えている人にとって悩みの一つに『集落との付き合い方』があるのではないでしょうか。村八分などニュースで見かけることもあります。

石坪さんに『集落との付き合い方』についてたずねたところ、コミュニケーションが大事であると教えていただきました。

その理由は、田舎のイメージは都会に比べ人が少なく、人と接する機会が少ない、人の目を気にしなくてよい、1人で何でもできると思われがちですが、実際はそうではなく、人と接する機会が都会より多いそうです。

なぜなら、都市部では行政が行っていることを田舎では自分たちですべてをしなければなりません。そのため地域活動への参加の機会が多く、例えば石垣の修復や、田んぼの水路の掃除など、みんなで協力し合わなければなりません。そうやって助け合わなければ住みよい町はできないのです。

そのため石坪さんは、人付き合いが苦手な人はかえって田舎暮らしは難しいのではとおっしゃっていました。地域では、より周りと協力しなければ生きていけない環境なのです。

また地域の役割として実際暮らしてみると、集落にとって農地の扱いが想像よりも大きな課題だったというお話も聞き、地域における『農業』の重要性を感じました。

石坪さんのお話から、どこの地域であっても人とのコミュニケーションが一番大事なのかもしれません。


『半農半X』生活について

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2022年の現在、石坪さんは茨木市に移住して3年目になります。

現在、デザインの仕事と農業と2つを行いながら『半農半X』として生活をされています。収入の割合としてはデザイン95%・農業5%と、まだまだ『半農半X』の挑戦中であるとおっしゃられていました。

石坪さんは、農業収入を増やして収入割合を変えていきたいとおっしゃっていました。

そこで農業収入を増やす方法として個人事業主の経験を農業にも活かせるのではないかと試行錯誤されています。

例えば、農作物の販売方法がその一つです。

一般的に農家の方は『直売所』のみで販売している方が多いそうです。なぜなら『直売所』であれば、利益率が高く販売することができるためです。反対に『市場』で販売している農家の方は少ないそうでその理由は、利益率が『直売所』に比べ低いからです。

これだけ聞くと『直売所』での販売の方がよいように思いますが『直売所』にもデメリットがあります。それは売れた分だけが収益となり、残った農作物は引き取りにいかなければなりません。反対に『市場』で売った分はすべて買い取ってくれるため引き取りもなく売上げ見込みもたてやすくなります。

『直売所』と『市場』では、それぞれメリット・デメリットがありそれを上手く活用・リスクヘッジを考えながら、石坪さんは日々試行錯誤されているそうです。

そしてこういった考え方ができるようになったのは個人事業で培った経営経験があったからだとおっしゃっていました。

農業もただ栽培するだけでなく経営者としての目が必要で、農家の方が最初にぶつかる問題なのかもしれません。


これから『半農半X』を考えている人たちへ

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『半農半Xは、夢を持ちすぎるとギャップが大きい。』

これは、私が石坪さんに『半農半X』についての注意点をお聞きした時にいただいた言葉です。

『半農半X』3年目の石坪さんだからこそ説得力のある言葉です。

TVやSNSなどで『田舎暮らし』をしている人たちをみて、こんな生活をしたいなぁ、好きなことをしていいなぁと思っていましたが、実際にやっている人たちは色々な苦労があります。

今回お話を聞かせていただいた石坪さんは『田舎暮らし』を始めて、特に大きな問題なく集落に馴染むことができた珍しいケースで、そのため、さまざまなところで取り上げられています。

そして今回、少しでも『半農半X』をしたい人たちの参考になればとお話いただきました。

これから『半農半X』をされる方には厳しいお話もあったかと思いますが、そこは理想と現実を知ってもらいたいという石坪さんからのアドバイスです。事前に知ってもらう事により『半農半X』の準備や計画をしっかり考えるきっかけになればうれしいです。

あわせて国や自治体など、行政の規制緩和や補助金なども活用できるものは活用することも必要です。そのあたりについては当所へご相談いただければと思います。

これから農業の担い手は更に減少していきます。それを少しでも向上させるには『半農半X』という新しいライフスタイルを確立していくことがカギとなると思っています。

今回はここまでです。ありがとうございます。 また石坪さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。